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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)802号 判決

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

控訴人前田ハツと被控訴人織田義市との間の原判決主文第一項に「昭和二九年九月一二日」とあるのを「昭和二九年九月一三日」と更正する。

事実

控訴人前田ハツ(以下控訴人前田という。)、同野田治(以下控訴人野田という。)各訴訟代理人は「原判決を取り消す。被控訴人織田義市(以下被控訴人という。)の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。

被控訴人訴訟代理人は、

一、訴外小場勘一は、大阪市西区阿波堀町一丁目六七番地の三宅地二三坪六合八勺(七八・二八m2以下本件宅地という。)をその所有者であつた控訴人前田から買い受け所有権を取得したが、所有権移転登記を経由しなかつた。被控訴人は、昭和二九年三月二九日小場勘一の代理人〓甚之助と本件宅地を代金二三万円、代金支払と引換えに所有権移転登記をする約定で買い受け、右登記は、本件宅地の登記名義人である控訴人前田から中間省略登記によりする約定であつた。そして、控訴人前田は、右中間省略登記に同意していた。被控訴人は、同年九月一一日訴外株式会社織田義商店から借り受け、右代金二三万円を支払つた。しかし、当時本件宅地は、土地区画整理地区内にあつたため、所有権移転登記をすることができなかつたので、土地区画整理法の換地処分による登記のあるまで仮登記をすることとなつた。右仮登記は、不動産登記法二条一号による仮登記によるべきであつたが、右仮登記手続を委任された司法書士奥田義夫は、誤つて請求権保全の仮登記を申請し、昭和二九年九月一三日大阪法務局江戸堀出張所受付第一二五一四号を以て同月一一日付売買予約を原因とし、同法二条二号の仮登記を経由した。

しかるに、昭和三五年七月一日受付により本件宅地につき、土地区画整理法の換地処分による登記がなされたので、本登記をするにつき、不動産登記法二条一号の手続上の条件が具備された。そこで、控訴人前田に対し、右仮登記に基づく本登記手続をすることを求める。

二、控訴人野田は、大阪地方裁判所において、昭和三八年三月一五日控訴人前田に対し、本件宅地につき、譲渡、質権、抵当権、賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない旨の仮処分命令(同庁昭和三八年(ヨ)第五四四号事件)を得て、同日大阪地方法務局江戸堀出張所受付第六八九九号を以て右仮処分の登記手続を経由した。しかし、右仮処分登記は、被控訴人の仮登記の後順位であるから、控訴人野田は、右仮処分を以て被控訴人に対抗することができない。従つて、控訴人野田は、本件宅地につき前記本登記をすることを承諾する義務がある。

三、控訴人野田は、本件宅地上に同控訴人と被控訴人との間の原判決添付目録第二記載の建物(以下本件建物という。)を所有し、被控訴人が右宅地の所有権を取得した昭和二九年九月頃から被控訴人に対抗できる権限なく右宅地を占有使用しているので、被控訴人は、控訴人野田に対し、本件宅地に対する前記所有権移転登記手続完了と同時に右建物の収去を求める。

四、控訴人野田が本件宅地を小場勘一から買い受けたこと及び控訴人野田主張の抗弁事実は、いずれも否認する。仮りに、控訴人野田がその主張のように建物保護に関する法律に基づき、本件宅地につき、賃借権(その内容等は不明であるが。)があるとしても、被控訴人は、控訴人野田に対し、昭和四六年六月一四日付催告書により、仮りに賃借権があるならば、本書到達の日から四日以内に延滞地代を支払うよう催告し、右書面は、同月一五日控訴人野田に送達され、右期限は、同月一九日となつた。被控訴人は、同月一九日付条件付契約解除通知書を以て、前記期限内に延滞地代の支払がないときは、右期限満了を以て右賃貸借契約を解除する旨通知し、右書面は、同月二一日控訴人野田に送達された。よつて、控訴人野田が予備的に主張する賃借権は、昭和四六年六月一九日を以て終了し、控訴人野田は、被控訴人に対し、本件宅地につき、正当な占有権限がなくなつたので、本件建物を収去しなければならない。

と陳述し、立証(省略)

控訴人前田訴訟代理人は、

被控訴人の控訴人前田に対する主張事実中、本件宅地が元控訴人の所有であり、これを昭和二五年四月頃小場勘一に売り渡したこと、本件宅地につき、被控訴人主張の各登記が存することは、認めるが、その余の主張事実は争う。控訴人前田は、右宅地を小場勘一に売り渡したもので、被控訴人に売り渡したものではないから、被控訴人に対し、所有権移転の本登記をする義務はないと陳述し、立証(省略)

控訴人野田訴訟代理人は、

一、被控訴人の主張事実中、本件宅地が元控訴人前田の所有であつたこと、昭和二五年四月頃小場勘一が控訴人前田からこれを買い受けたこと、本件宅地につき、被控訴人主張の各登記が存すること、控訴人野田が右宅地上に本件建物を所有し、昭和二九年九月以前から右宅地を占有していることは、認めるが、被控訴人が本件宅地を買い受け所有権を取得したことは否認する。控訴人野田に対する被控訴人のその余の主張事実は争う。

二、小場勘一は、昭和二五年四月頃、控訴人前田から本件宅地を買い受け所有権を取得したが、所有権移転登記を経由せずにこれを所有していた。控訴人野田は、昭和二九年三月頃株式会社〓正工務店の紹介で右宅地を代金二一万円(仲介料二万円)で買い受け、右代金を当時控訴人野田が専務取締役をしていた株式会社織田義商店から借り受け、同年九月頃支払つた(右借受金は、昭和三一年一月から昭和三三年二月までの本件建物を右会社に賃貸した一カ月一五、〇〇〇円の割合による賃料と相殺により弁済された。)しかし、控訴人野田は、当時第三者に対し約一〇〇万円の債務を負担しており、その調停事件が係属中で、右宅地を控訴人野田名義にすれば、債権者から右宅地につき、法律手続をとられるおそれがあつたので、被控訴人と控訴人野田とは従兄弟で、しかも右織田義商店の社長と専務取締役であるところから、被控訴人名義にしておくのが安全と考え、被控訴人と相談の上、右調停の解決まで一応被控訴人名義に登記しておくことにした。現在調停は、解決したので、右約定に従い、被控訴人は、控訴人野田に対し登記に協力しなければならない義務がある。右の次第で、本件宅地に対する被控訴人名義の仮登記は、被控訴人と控訴人野田との約定で単に名義を貸しただけの仮装のものである。

三、仮りに、右約定が認められないとすれば、右仮登記は、売買行為がないのに、控訴人野田の権利を害するために売買があつたように装い、控訴人前田と通謀してなした虚偽表示による無効な売買を原因とするものであるから、その原因を欠くものである。

四、仮りに、被控訴人が本件宅地を買い受けたものとすれば、当時既に同宅地上には控訴人野田所有の本件建物が存在していたのであるから、地代につき、何らかの協議及び約定がなされるのが当然であるのに、その事実のなかつたことは勿論、被控訴人は控訴人野田に対し、地代の請求をしたこともない。このことは、本件宅地の所有権取得原因に関する被控訴人の主張の理由がないことを示すものである。

五、仮りに、被控訴人が本件宅地の所有者であるとしても、株式会社織田義商店は、本件建物を控訴人野田から賃借し、昭和三〇年一二月まで一カ月一五、〇〇〇円の割合による賃料を支払つてきた。被控訴人は、同会社の代表取締役であり、右事実を知りながら右建物において営業してきたのであるから、控訴人野田が本件宅地上に建物を所有することにより右宅地を占有することを認諾しているのである。

六、仮りに、被控訴人が本件宅地を買い受け所有権を取得したとしても、控訴人野田は、昭和二七年頃右宅地上に存する本件建物を買い受け所有権を取得し、所有権移転登記を経由し、かつ、右宅地の前所有者小場勘一との間に右建物の所有を目的とし、賃料六カ月五、〇七〇円の約定による賃貸借があつたのであるから、建物保護に関する法律第一条により、その後の本件宅地の所有権を取得した被控訴人に対し、右賃貸借を以て対抗することができる。

七、被控訴人は、右賃貸借契約は、解除されたと主張するが、右解除の意思表示は、次の理由でその効力がない。

(一)  本件訴訟における訴訟物は、本件宅地の所有権である。控訴人野田は、当初から右宅地の所有権は控訴人野田にあると主張してきた。従つて、土地所有権に関し本件判決がいずれかに確定しない以上、所有権の帰属は不明であり、被控訴人の控訴人野田に対する地代請求権は、潜在的なものにすぎない。即ち右地代請求権は、被控訴人の控訴人野田に対する本件宅地所有権の勝訴判決確定を停止条件とする請求権である。そうすると、右条件が成就していない現在被控訴人は、控訴人野田に右地代の支払を請求する権利はなく、従つて、これに基づく右解除の意思表示は無効である。

(二)  被控訴人は、甲第一七号証の一において請求金額を明示せず「小場殿に支払われていた同額の地代の割合にて昭和二九年九月一四日以降本年五月末日までの分を」支払えと催告した。しかし、右催告は、次の理由で過剰催告で無効である。即ち、既に述べたとおり、控訴人野田は、被控訴人が代表取締役である株式会社織田義商店に本件建物の一部を一カ月一五、〇〇〇円で賃貸し、同会社は、昭和三〇年一二月分まで右賃料を支払つたが、その占有の最終日の昭和三三年二月までの賃料の支払をしていない。従つて、仮りに、本件宅地の所有権が被控訴人にあり、地代請求権があるとしても、同会社の右建物占有中は、右家賃額は被控訴人の控訴人野田に対する地代請求権と控訴人野田の右会社に対する家賃請求権を考慮して決定されたものであり、同会社の控訴人野田に対する家賃支払中は控訴人野田の被控訴人に対する地代支払義務は、当然に解除されていたのである。

と陳述し、立証(省略)

理由

本件宅地が元控訴人前田の所有であり、同控訴人がこれを小場勘一に売り渡したこと、右宅地に被控訴人主張の各登記が存することは、当事者間に争いがない。

原審証人前田ハツの証言、当審における控訴人前田本人尋問の結果により成立を認められる甲第一号証、成立に争いのない甲第五号証、被控訴人と控訴人前田との間で成立に争いがなく、控訴人野田の関係で当審における控訴人前田本人尋問の結果により成立を認められる甲第七号証、第一〇ないし第一三号証、原審証人小場勘一の証言により成立を認められる乙第一号証、原審証人前田ハツの証言により成立を認められる乙第二号証、原審証人前田ハツ及び当審における控訴人前田本人尋問の結果、原審及び当審における証人小場勘一の証言の一部、原審証人前田秀男の証言、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果、及び弁論の全趣旨を総合すると、小場勘一は、昭和二五年四月頃、本件宅地を控訴人前田から買い受けたが(この点当事者間に争いがない。)、その所有権移転登記をなさず、これを所有していたこと、小場勘一は、昭和二九年三月頃〓甚之助に本件宅地の売却を委任し、〓甚之助は、右委任に基づき、同月二九日右宅地を代金二一万円(仲介料二万円)で被控訴人に売り渡す旨約し、被控訴人は、同年九月一一日右代金及び仲介料の合計二三万円を〓甚之助に支払つたこと、〓甚之助は、控訴人前田に対し、小場勘一が本件宅地を売却することを告げ、控訴人前田から本件宅地の所有権移転登記に必要な印鑑証明書、委任状の交付を受け、登記手続に関する権限を与えられたこと、控訴人前田、小場勘一は、本件宅地の所有権移転登記を控訴人前田から被控訴人へ直接することを承諾していたこと、被控訴人が前記のように代金を支払い、登記手続を司法書士奥田義夫に委任したところ、同人は、少くとも不動産登記法第二条第一号の仮登記をすべきところ、誤つて売買予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記を申請し、本件宅地につき、昭和二九年九月一一日売買予約を原因とし、同月一三日大阪法務局江戸堀出張所受付第一二五一四号で所有権移転請求権保全登記がなされたこと(右仮登記の点は、当事者間に争いがない。)を認めることができる。右認定に反する当審証人小場勘一、同山崎クニヱの各証言、原審及び当審における控訴人野田本人尋問の結果は、前掲の各証拠と対比して信用できないし、他に各認定をくつがえすに足る証拠はない。

控訴人野田は、小場勘一から本件宅地を買い受けたのは控訴人野田であるが、控訴人野田には当時第三者に一〇〇万円の債務があり、調停手続中であつたので、右債権者から本件宅地を守る目的で控訴人野田と被控訴人とが通謀して被控訴人名義で仮登記をしたにすぎないと主張するが、右主張にそう当審証人山崎クニヱ、小場勘一の各証言、原審及び当審における控訴人野田本人尋問の結果は、前掲の各証拠に対比して信用できないし、他に右主張事実を認めるに足る証拠はないから、右主張は、採用できない。

控訴人野田は、本件仮登記は、何ら売買行為がないのに、控訴人野田の権利を害するために売買があつたように装い、被控訴人が控訴人前田と通謀してなした虚偽表示による売買を原因とするものであると主張するが、本件宅地は、既に認定したとおり、控訴人前田から小場勘一に売り渡され、被控訴人が小場勘一からこれを買い受けたものであり、前記認定の事情で所有権移転請求権保全の仮登記をしたものであることが明らかであり、被控訴人と控訴人前田とが通謀して本件宅地の売買契約をしたことを認めるに足る証拠はないから、右主張は、採用できない。

次に、控訴人野田は、被控訴人が本件宅地を買い受けたものとすれば、その地上には控訴人野田所有の本件建物が存在していたのであるから、控訴人野田に対し、地代につき、何らかの協議及び約定がなさるべきであるのに、その事実がなく、地代の支払を請求したこともなかつたのであるから、被控訴人の右宅地の所有権取得原因の主張は理由がないと主張するが、仮りに、右のような事実があつたとしても、それだけで前記認定をくつがえし、右主張を正当とする理由になし難いから、右主張は、採用できない。

そうすると、控訴人前田は、被控訴人に対し、前記仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をする義務があり、控訴人野田の前記仮処分登記は、被控訴人の仮登記後になされたものであることが明らかであるから、控訴人野田は、被控訴人に対し、被控訴人が本件宅地につき、前記仮登記に基づく本登記をするにつき承諾をする義務がある。従つて、控訴人らに対し、右義務の履行を求める被控訴人の本件請求は、いずれも認容さるべきである。

次に、被控訴人の控訴人野田に対する本件建物の収去を求める請求につき、判断することにする。

控訴人野田が本件宅地上に本件建物を所有して、右宅地を占有していることは、被控訴人と控訴人野田との間に争いがない。控訴人野田は、被控訴人が右控訴人野田の本件宅地の占有を承認していたと主張するが(同控訴人主張の五)、その主張のように、被控訴人が代表取締役であつた株式会社織田義商店が本件建物を賃借し、賃料を支払つていたことがあつたことは、原審及び当審における控訴人野田本人尋問の結果によつて認められるが、このことだけで、被控訴人が控訴人野田の主張するように承諾していたと認めることはできないから、右主張は、採用できない。

成立に争いのない乙第三号証の二、当審における控訴人野田本人尋問の結果により成立を認められる乙第六号証、当審証人小場勘一の証言、当審における控訴人野田本人尋問の結果を総合すれば、控訴人野田は、昭和二七年七月四日本件宅地上の家屋番号六七番の二、三木造瓦葺二階建店舗一棟床面積一階七坪六合九勺、二階七坪九勺を買い受け、同月五日所有権移転登記を経由したこと、控訴人野田は、右建物を買い受け所有権を取得するとともに本件宅地の当時の所有者小場勘一から右宅地を賃料六カ月五〇七〇円の約定で家屋所有の目的で賃借し、小場勘一が右宅地を売却するまで右賃料を支払つてきたことを認めることができる。そして、被控訴人は、既に認定したように、本件宅地を昭和二九年三月二九日小場勘一から買い受ける旨契約し、同年六月一三日仮登記をしたのであるから、控訴人野田は、建物保護に関する法律第一条により、本件宅地に対する前記賃借権を以てその後に本件宅地の所有権を取得した被控訴人に対抗することができるものといわなければならない。

被控訴人は、仮りに、右賃貸借があるとしても、解除されたと主張し、成立に争いのない甲第一七、一八号証の各一、二によると、被控訴人は、昭和四六年六月一四日付催告書により、控訴人野田に対し「本件宅地につき、貴殿は、所有権が認められないときは、小場勘一との間に賃借権があつたので、被控訴人に対しても賃借権があると述べているが、そうであるなら、貴殿が小場に支払われていた同額の地代の割合で昭和二九年九月一四日以降本年五月末日までの分を本書到達の日から四日以内に京都市下京区四条通寺町東入被控訴人方へ持参または送金して支払われるよう催告する。」旨催告し、右書面は、同月一五日に控訴人野田に到達したこと、被控訴人は、同月一九日付条件付契約解除通知書により、控訴人野田に対し、「同月一四日付催告書は、同月一五日控訴人野田に送達されたので、催告期限は同月一九日である。よつて、右期限内に延滞地代の支払がないときは、貴殿に賃借権があつたとしても、地代不払を理由に右期限満了を以て右賃貸借契約を解除する。」旨通知し、右通知書は、同月二一日控訴人野田に到達したことを認めることができる。前記賃料の催告は、控訴人野田から小場に支払つていたと同額の地代の割合で昭和二九年九月一四日以降昭和四六年五月末日までの分を支払えと催告したものであつて、金額を特定していないが、賃貸借契約解除の前提である賃料支払の催告は、その催告の内容により支払うべき賃料を特定できれば、金額の明示は必ずしも必要でないと解するのを相当とし、既に認定したとおり、控訴人野田は、被控訴人が所有権を取得した後である昭和二九年九月一四日以前から本件宅地を占有していたのであり、小場との間の本件宅地の賃貸借の賃料が六カ月五、〇七〇円の約定であり、これを支払つていたのであるから、被控訴人から控訴人野田に対する前記催告の内容により、控訴人野田の支払うべき賃料は特定し得るのであるから、右催告は、適法であるというべく、控訴人野田が正当の事由なくして右催告に応じなかつた場合には、被控訴人は、本件宅地の賃貸借を解除することができるものというべきである。

そこで、控訴人野田の契約解除の効力に関する主張(一)につき考えるに、本件訴訟は、本件宅地につき、控訴人前田に対し本登記手続を求め、控訴人野田に対し、右本登記をすることにつき承諾を求め、右本登記完了と同時に本件建物の収去を求めるものであることは記録上明らかであつて、本件宅地の所有権確認の訴ではなく、賃料債権確認の訴でもない。既に説明したとおり、被控訴人が本件宅地を買い受けて所有権を取得し、控訴人野田と小場との間の本件宅地の賃貸借を被控訴人が承継せざるを得なくなつたのであり、しかも、その抗弁は、控訴人野田から主張されたのであるから、右抗弁が前記のように認められる以上、控訴人野田は、本件訴訟の判決の確定をまつまでもなく、本件宅地の賃料を支払う義務があることは明らかである。従つて、控訴人野田の右主張は採用できない。

次に、控訴人野田の同(二)の主張について考えるに、当審における被控訴人及び控訴人野田各本人尋問の結果によると、被控訴人が株式会社織田義商店の代表者であつたこと、控訴人野田が同会社に本件建物の一部を賃料一カ月一五、〇〇〇円で賃貸していることを認めることができるが、右会社が右建物占有中の家賃額は、被控訴人の控訴人野田に対する地代請求権と控訴人野田の右会社に対する家賃請求権とを考慮して決定されたもので、右会社が家賃支払中は控訴人野田の被控訴人に対する地代支払義務は免除されていたとの主張事実を認めるに足る証拠はないから、控訴人野田の(二)の主張も採用できない。

被控訴人が控訴人野田に対しなした前記催告は、たとえ仮定的催告であつても、所定の期限までに賃料の支払を催告する趣旨であることは明らかであり、債務者の控訴人野田が賃料を提供しても、被控訴人がこれを受領する意思が認められないような特段の事由の存在を認めることができず、控訴人野田が右催告期間内に催告された賃料を提供したことも支払つたことをも認めるべき証拠のない本件では、右賃貸借契約は、被控訴人のなした前記賃貸借契約解除の意思表示が控訴人野田に到達した昭和四六年六月二一日に解除されたというべきである。

そうすると、控訴人野田は、被控訴人に対し、被控訴人の請求するように本件宅地につき本登記を経由すると同時に本件建物を収去して本件宅地を明け渡す義務があることは明らかであるから、被控訴人が右建物の収去を求める請求は、正当として認容さるべきである。

以上と同趣旨の原判決は、いずれも正当であつて、本件各控訴は、理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して、主文第一、二項のとおり判決する。

なお、被控訴人と控訴人前田との間の原判決主文第一項に「昭和二九年九月一二日」とあるのは「昭和二九年九月一三日」の明白な誤りであることが記録上明らかであるから、民訴法一九四条により主文第三項のとおり更正する。

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